記事の詳細

ビデオ分析のアドバンテージに気づいたテニスコーチたち
ニューヨーク・タイムズ2013年6月2日の記事より)



[お断り]前半部分のみの翻訳です。また慣用句や言い回しが非常に多いため、翻訳の正確性は保証いたしません。何かお気づきになりましたら、原文の英語をご参照ください。

日曜日に全仏オープンの4回戦でロジャー・フェデラーと対戦するジル・シモン。彼は自分の意のままになる多くの武器を持っている。それはスピードであり、彼の代名詞でもある両手でのバックハンドのダウンザラインであり、そしてワールドクラスの選手のパワー攻撃を封じ込め、回復力のない選手なら容易に沈めてしまう、彼の世界一流の能力だ。
さらにシモンは、フェデラーの戦術パターンと傾向について、ビデオ分析から多くのデータも得ているのだ。
(訳者注:シモンはフェデラーをフルセット[6-1, 4-6, 2-6, 6-2, 6-3]まで追いつめた末に敗退。)

 

テニス・オーストラリアのパフォーマンス分析

他のスポーツではすっかり当たり前になった「ゲーム映像を使う文化」、しかしテニスは長年、そこから取り残されていた。しかし、その流れは変わりつつある。オーストラリアのテニスの統括団体、テニス・オーストラリアは、今や高性能のビデオ・パフォーマンス分析装置を備え、オーストラリアの選手たちに対し、対戦する相手選手に関する最新の映像と、数々のパターンをブレイクダウンしたデータを提供できるのだ。それはもちろん、その選手がウィンブルドンで試合をしていようが、ウズベキスタンのタシケントでチャレンジャーシリーズを戦っていようが、届けることができる。

「もう今までのように、選手が頻繁にYouTubeにアクセスする必要はない。」このプログラムを運営しているダレン・マクマーティは、メルボルンでのインタビューにそう答えた。オーストラリアの女子選手のトップ、2011年の全米オープンの王者であるサマンサ・ストーサーも「それはいろんなことに使えるし、本当に役に立ったわ。」と語る。彼女は詳細な統計データと、整理されたビデオクリップを最大限に活用してきた選手のひとりだ。

グランドスラムを開催している他の国ではどうだろう?フランス、アメリカ、イギリス…オーストラリアほど広範囲には活用していないかもしれないが、今、どの国も似通ったシステムを持っている。「彼らは、我々よりずっと多くの投資をこの分野にしているよ。」アメリカ・テニス協会の競技力向上責任者、パトリック・マッケンローはオーストラリアを評して、そう語った。

スペシャリスト、ヤン・デ・ウィット

しかしコーチの中には、ビデオ分析の有効性にもっと早くから気づいた人もいた。例えばドイツ人コーチのヤン・デ・ウィット。彼はトップ20にランクされるシモンが、その手加減のない徹底的な戦術分析の能力を見込んで、4月に契約をしたのだった。

「ヤンを選んだ理由かい?私のプレー選択について、間違いないと自信を持たせてくれるからさ。」3回戦でのサム・クエリーとの5セットにわたる戦いを制した後、フランス人のシモンはそう語った。「コート上での戦術と戦略の面で、僕より多くの選択肢を持てる選手はまずいないんじゃないかな。サムとの試合がそうだったように、僕は最初の何回戦かの間は、同じような戦い方はしない。サムが誰に対しても同じスタイルで戦っているのとは違ってね。」

「サムの場合、自分が使いたい武器に気持ちが集中しているんだ。サーブとフォアハンドだ。彼に限らず、多くのプレーヤーは自分自身に起きること、つまりネットの「こっち側」しか気にしていない。しかし僕は違う。ネットの「向こう側」で起こっていることに注目しているんだ。だから僕にとって戦術はとても大事で、ヤンはその能力にとても優れている。特にビデオを使うことにかけてはね。」

スクリーンショット 2013-10-22 0.48.55
スポーツコードでの分析例.1(本文とは関係ありません)

スタッツに潜む落とし穴

デ・ウィットのビデオが特に威力を発揮したのは、5月のマドリードでの大会、ベスト16でのアンディ・マレー戦だったとシモンは言う。過去の対戦でマレーはシモンを完全に封じてきた。しかしマドリードではシモンは3セット目をタイブレーカーの末に落として敗れたが、十分にマレーを追いつめたのだった。

シモンは語る。「それまでマレーには10回負けていた。そこでヤンは私に、どんなパターンで負けているのか、そしてプレーの中で何を避けなくてはならないか、何をしないといけないのか、を見せてくれた。それがとても助かった。」「ビデオを使うことは簡単だ。することといったら、何かを撮影し、パートに切り分けるだけ。肝心なことは、それをどうやって賢く使うかということだ。これこそ面白いところで、コーチの仕事はまさにそうあるべきさ。コーチはプレーヤーに対し、最も大事な点だけ与えるべきだよ。」

「ひとつ例をあげよう。」シモンはまた、統計には危険があるとも言った。「ある選手に対して、ネットプレーでバックハンドにアタックすれば80%の可能性でポイントが取れると、データから読み取れたとしよう。しかし、もし試合ですべてバックハンドに打ったとしたら、ポイントが取れる可能性は80%にはならないよ。だって考えてもみなよ、相手は僕が同じところにしか打ってこないことが分かっているんだからね。」

SportsCodeを導入したコーチ

ビデオカメラの普及以来、試合や練習のビデオを定期的に撮影するコーチや親たちは、数えきれないほどいるだろう。しかしエリートレベルのテニスコーチが初めて対戦相手の分析のためにビデオを使った例といえば、オーストラリア人のダレン・ケーヒルがレイトン・ヒューイットとアンドレ・アガシのコーチをしていた、2000年代の初頭になるまでなかっただろう。

ダレンは、自分の父ジョンがプロのプレーヤーであり、コーチでもあったスポーツ、オーストラリアンルール・フットボールからインスピレーションを受け、SportsCodeと呼ばれるシステムを購入した。

「AFLのクラブは、アメリカのNFLやバスケットボールからこのシステムを取り入れた。私はまず、レイトン・ヒューイットの試合のためにこれを使い、それからアンドレのためにも使うようになった。」とケーヒルは言う。「私は、ビデオ分析はテニス界では未開拓の分野であり、価値を加えるものだと思っている。コーチングの上で、私たちはまだ後ろを追いかけ始めたばかりだけど、次第に多くの人たちがこれに投資し始めているように思う。」

スクリーンショット 2013-10-22 0.49.59
スポーツコードでの分析例.2:コードボタンのみ(本文とは関係ありません)

先駆者の苦労と喜び

ケーヒルはヒューイットとアガシのコーチをしている間、システムの使用をずっと秘密にし続けてきた。
「スマートな人よ。」土曜日のインタビューでストーサーは言った。ケーヒルはそうした理由を「最先端だと思ったからさ。それだけだよ。」と言う。

最先端であることは、同時に労働集約的でもあった。ケーヒルは3時間の試合を処理するのに「6-7時間かかった。」と言う。映像の中から、ヒューイットやアガシのためにハイライトすべき価値のある要素を取り出し、分析するのだった。「もちろん、とても時間がかかったさ。けれどもその価値のある時間だった。」「プレーヤーと並んで座って、ゲームのビデオを3時間も見ると考えてみなよ。石けんの泡の中で迷子になってるようなもんさ。でも、これが君が見るべき3つの特徴的なシーンだと言って、わずか11分ばかしの間にその3つをしっかり説明してあげることができれば、そのメッセージはもっと早く、くっきりと心に刺さるんじゃないかな。」
(記事中、見出し、画像は訳者による補足です。)

■記事へのリンク

関連する記事がテニス・オーストラリアのサイトにもあります。
■”The advantages of video analysis”

(翻訳:橘 肇)

関連記事

アーカイブ

ページ上部へ戻る