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現在、アメリカプロバスケットボール・NBAにおけるスポーツコードのシェアは30チーム中の27チームになりました。スポーツコードの登場前に他の分析システムがすっかり広がっていたアメリカのバスケットボールの世界で、どうしてSportsCodeがそれだけのシェアと信頼を得るに至ったのか、その秘密を私たちが2004年にスタンフォード大学を訪ねたときのリポートから感じてください。

(報告:橘 肇、初出2004年5月)

1.「ビデオ・コーディネーター」 という仕事

NCAAの強豪・スタンフォード大学
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(スタンフォード大学バスケットボール部の練習コート。天井には、これまで獲得したタイトルのフラッグが掲げられている。)
スタンフォード大学が、政治、経済、科学などの分野だけでなく、スポーツにおいても常に目覚ましい成績を収め、アメリカのカレッジスポーツ界をリードする存在であることは改めて説明の必要はないでしょう。今回私たちが訪問した男子バスケットボール部は、2003-2004年のシーズンにおいて17勝1敗でカンファレンスを優勝、さらに上位8チームで行われるトーナメント戦に優勝して、NCAAのファイナルトーナメントでも二回戦まで進出するという好成績を収めました。公式戦のトータルでは、実に開幕からの26連勝を含む30勝2敗というすばらしいものでした。

ビデオ・コーディネーター
この好成績の原動力の一つが、昨年から導入した「スポーツコード・デジタル・ビデオ・データベース・システム」と、そのシステムをフルに活用した選手、コーチへの的確な映像データのフィードバックにあると聞き、私たちはそのキーパーソンにコンタクトを取りました。
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(バスケットボール部のオフィス。受付を囲むように各コーチの部屋や、ビデオ分析ルームが並ぶ。)
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(ビデオ・コーディネーターL.J.Hepp氏(左)と、日本の社会人でプレーした経験のあるアシスタントコーチEric Reveno氏(右))

Arrillaga Family Sports Center の真新しい建物で私たちを案内してくれたのは、バスケットボール部の「ビデオ・コーディネーター」L.J.Hepp氏です。Hepp氏はバスケットボールをプレーするとともに経営学を修め、スポーツ管理学で修士号を取得したという経歴の持ち主です。プロのコーチ(アメリカでは大学のスポーツでも「プロのコーチ」がいることは当たり前のことです)をめざし、昨年、この大学でコーチとしてのキャリアをスタートさせました。

Hepp氏の現在の仕事を一言で言うと「試合、練習のビデオを『デジタル・データベース化』し、必要なときに、必要な相手(コーチ、選手)に対して、必要な映像を情報とともにフィードバックする。」ということです。何よりもまず、こうした役割が大学のチームでもすでに職種として確立しているということに、アメリカのスポーツ界において「映像というデータ」がどれだけ重要視されているかということを強く実感させられました。

8試合の映像を2時間で
最初にHepp氏は、昨シーズン作成したビデオデータベースの一部を見せてくれました。Macintoshのノートブックコンピュータの画面上には、デジタル化されたビデオが再生されています。このビデオの中から、チームで独自に設定した分析の項目、例えば「シュート」「リバウンド」「ターンオーバー」「ファウル」といった一般的なカテゴリーから、「ディフェンス」「オフェンス」などの詳細なフォーメーション、また「選手ごとのプレー」などの細かな項目に至るまで、クリックですぐに検索、編集、再生できるようになっています。また表になっている統計の数値をダブルクリックすると、その数値に該当するシーンをすぐに再生することができます。
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(ビデオルームのHepp氏。頭上の棚にあるビデオテープを、デジタル・データベースに変換していく。)

「この映像は、8試合のビデオを一つにまとめたものです。約16時間のビデオ全体の中から、コーチや選手が必要とするシーンをピックアップし、その部分だけを最終的に保存しています。8試合のハイライトを2時間あれば見せることができますし、見たいプレーだけをもっと絞り込んで5分、10分という短時間で確認することもできるのです。」
このデータベースを作るには、まずビデオをテープからコンピューターのハードディスクに取り込み、同時にその映像を見ながら先に述べたような分析項目のボタンを押して、映像上に「付箋」を貼るように入力していきます。ビデオを見終わると同時に、検索・集計・再生が可能なデータベースができているのです。

急速に普及するスポーツコード・システム
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(ビデオを見終わると同時に、検索・編集・再生が可能なデジタルデータベースが出来上がる。)
スポーツコード・システムはアメリカのバスケットボール界で近年急速に普及しているそうで、大学だけでなく、NBAのシアトル・スーパーソニックスも昨年のシーズンから導入しており、日本での開幕戦の際にも使用していました。ひょっとしたら日本のバスケットボール関係者の中にも、目にした人がいるかもしれません。次にHepp氏は、このシステムでデータベース化した映像を、コーチや選手に対してどのようにフィードバックしているのか、具体的に説明してくれました。

2. 選手にどう「フィードバック」するのか

対戦相手の情報を迅速にフィードバック
まず対戦相手については、一人一人のプレーヤーについて「オフェンス」「ディフェンス」などの局面ごとに細かく編集して再生します。そしてその映像を見ながら、どういう特徴や傾向を持っているか、個々のプレーヤーについての詳細なスカウティングシートを作成します。
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(スポーツコードのデータを基に作成した、対戦チームの選手についての詳細なスカウティング・リポート。)

システムの導入前は、このシートを作るためにビデオテープを再生しながら何度も巻き戻しやスローモーションを繰り返したり、一般的なビデオ編集ソフトウェアを使って、膨大な時間をかけて編集したりしていました。データベースシステムの導入によって、まずこの作業が飛躍的に楽になったとのことです。

こうして作られたシートは各コーチにスカウティングリポートとして渡されますが、それを見たコーチから逆に「この選手のこのシーンを実際に見たい。」というリクエストがあれば、すぐにデータベースから検索してディスプレイ上で確認しています。こうした「映像データ」を具体的な「紙のデータ」に変換する作業、また逆に「紙のデータ」を「映像データ」で確認するという作業が常に行われて、次の試合のテーマと戦術が練られていくのです。

遠征先で、移動の飛行機・バスの中で
一方でスタンフォード大学の選手についても、試合の後すぐに、プレーごと、選手ごとにまとめられたビデオデータベースが作られています。どんな分析項目を設定するか、つまり選手やコーチが「どんなシーンを見たいか」ということについては、常にHepp氏との間でコミュニケーションが取られています。例えばヘッドコーチから「この選手はディフェンスにまわったときに、十分戻っていないのではないか?」という指摘を受けたり、選手から「最近、シュートのタイミングがおかしいような気がする。失敗したシーンをまとめてほしい。」というリクエストがあったりすれば、すぐにそのシーンをデータベースからピックアップするか、もしデータベースにない場合は新たに追加し、選手、コーチにフィードバックします。

データを見せる場所はビデオルーム内のこともあれば、体育館のコートサイドや、遠征先のミーティングルームや移動中の飛行機、バスの中になることもあります。またHepp氏がいなくても、選手用のコンピュータで自分の出場シーンだけをチェックしていることもよくあるそうです。

良いプレーか、悪いプレーか。
体育館の壁に貼り出されたスポーツ奨学生の顔写真。スポーツ、学業両面で常に好成績を求められる。
以前、私たちはあるナショナルチームのビデオ分析担当者から、「選手によっては悪いプレーのシーンを見せられると、気にしすぎて逆効果になることがある。だから国際試合の際にはスポーツ心理学者も帯同させ、事前に相談してから見せるシーンを選択している。」という話を聞いたことを思い出し、Hepp氏に対して、「主に良いプレーを見せているのか、それとも悪いプレーのシーンを見せることのほうが多いのですか?」と尋ねてみました。

「幸い、スタンフォードのプレーヤーはレベルが高く、自分に対する批判を受け入れられるだけのキャパシティを持っていますので、悪いプレーだけを取り上げた映像を見せることもよくあります。しかし、あくまでもバランスの問題です。例えば昨シーズンの始めは26連勝という最高のスタートだったのですが、3月に初めて負けたとき、チーム全体が自信を失いかけたことがありました。そのときには、チーム状態の良かったときの試合からグッドディフェンスのシーンを抜き出したものを作り、繰り返し見せてイメージを取り戻させることをしました。」

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(ビデオ分析とフィードバックの流れ。ビデオ・コーディネーターHepp氏が作成し、サーバーに保存しているスポーツコード・データベースを、LANを通じて各コーチや選手が自由に閲覧できる。)

新人のスカウティングと教育にも
Hepp氏は試合だけに留まらず、新人の「スカウティング」、また獲得した新人選手の「教育」にもビデオをフル活用しています。「有力な高校生のスカウトに行く際には、ニューヨークであろうとどこであろうと、このシステムを持っていきます。そして試合を見ながら、その選手のプレーシーンだけをピックアップしておくのです。こうしておけば、帰りの飛行機の中でもチェックができますし、コーチやスタッフとビデオを見る際にも非常に効率よく確認ことができます。」
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(ベーシックフォーメーションを繰り返しビデオで見せ、イメージをつけさせてから実際の練習に入る。)

さらに、スカウトしてきた新人選手たちを、「スタンフォードのバスケットボール」に早く溶け込ませるためにもビデオが使われます。データベースの中には、選手たちを使って体育館で収録したチーム独自のさまざまなフォーメーション(オフェンスやディフェンスなどに関して、例えば「ベーシック」や「ストロング」などと呼ぶものがあるそうです)の映像も保存されています。

その映像を、入学前の新人たちに対して繰り返し見せるのだそうです。よくあるホワイトボードとマグネットを使っての説明では、ボード上のすべてのプレーヤーを同時に動かすことが難しいため、選手一人一人に全体の動きを把握させる上では、この方法が非常に効果的だとのことです。

コーチと選手の間に立つ新しい役割
このインタビューを通じてHepp氏が強調していたのが、彼の立場が「いろいろな意味でコーチ同士、選手同士、そして選手とコーチの間に入り、ビデオデータを通じて彼らのコミュニケーションを深めていくポジション」だということでした。コーチが選手に対する疑問をいきなりぶつけるのではなく、映像と統計で確認しながら説明したり、選手が自分の気になる点をコーチに伝える際に、感覚としてだけでなく映像でその違いをより具体的に提示したりすることによって、選手とコーチの間での問題点の「共有」を進めることはその良い例ではないかと感じました。

最後にHepp氏は「この1年間、誰よりも深く、長くゲームや練習の映像を見ていますので、ヘッドコーチやアシスタントコーチが気づかない点に私だけが気づくこともよくあります。私がこれからコーチとして成長していく上で、こうした作業を続けていることは、間違いなく大きな勉強になっています。」と結んでくれました。

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