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コーチボックスの4人目の男
~ オールブラックスの進化を支えるウェールズ人アナリスト ~

 

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stuff.co.nz 2011年6月8日の記事より

 

コーチボックスの中の「4人目の男」として知られるようになった彼。しかしグレアム・ヘンリー、ウェイン・スミス、そしてスティーブ・ハンセンの隣りに座るその男は誰で、いったい、何をやっているのだろうか?

彼の名はアリスター・ロジャース。彼の歩んできた道は、ニュージーランドの子供なら誰でも夢見るものだろう。もっとも、彼がウェールズ人であるということを別にすればだが。

ロジャースは南ウェールズの工業都市ポート・タルボットで、マイケル・ジョーンズ、ウェイン・シェルフォード、マイク・ブリューワ、ショーン・フィッツパトリックといったオール・ブラックスのプレーヤーたちにあこがれて成長した。しかしニースの若いオープンサイド・フランカーだった23歳のとき、彼は英国でプロの選手になるという夢が、自分から去ってしまったことに気がついた。1999年、彼はスパイクをバッグに入れ、ウェリントンのウェスタン・サバーブ・クラブへの6ヶ月の旅に出ることにした。

このときこそが、いま彼が「パフォーマンス・アナリスト」という立場で席を占めている、オール・ブラックスのコーチ・ボックスまで続く旅の始まりだったのだ。

そこで彼が将来の妻、ケイティに会ったことも後押しになった。しかしニュージーランドでのプロ選手としての日々に区切りをつけ、IT企業を立ち上げるために帰国した後でさえも、彼はいずれニュージーランドに戻ってくることを確信していた。
「6か月のラグビーOEとしてスタートしたものが、結局2年続きました。」彼は言う。「これこそ私の目指すところだと直感したし、ここに来てすぐ、それが間違いないと確信しました。」

一言で言えば、ロジャースはITの専門家だ。だが、それだけでない付加価値を持っている。
ここ数年、彼はオールブラックスのコーチボックスの中にいるが、実際にはそれ以前から見えないところに控えていた。
「何か問題が起きたときに備えて、そこにいたんですよ。」と彼は笑う。「壁から出てるリード線のようにね。」
もちろん、彼の存在価値というのは、グラウンドの外にあるSky TVのトラックにラップトップを接続し、テストマッチの試合中、5つのカメラ・アングルをすべてコーチが見られるようにしてあげるなんてことよりもはるかに大きかったし、今でもそうである。

彼に対して与えられた高い評価は、ロジャースがいまテストマッチの試合中、ゲームのある部分を分析し、コーチたちに対して提案を投げかける4番目の「目」としてコーチボックスの中にいる、という事実が明白に表している。

しかし、彼の仕事のほとんどはキックオフの前に行われている。ビデオクリップをカットし、つなぎ、並び換え、そして統計と分析した結果を合わせて、コーチたちにプレゼンテーションを行うのだ。

彼が他人と違うところ、それは単に多くの「証拠」を集めてコーチの机の上に置くだけでなく、それ以上のことをやっているからだと彼は信じている。
「私はただチャンスに気づいただけ。そのチャンスとは、テクノロジーをより良く活用するという可能性でした。今まで、テクノロジーをパフォーマンスの支援のために使った人々はいないと思いますよ。」
「私はただ『こんな数値が出ています』と言うだけの人にはなりたくありませんでした。その数値の深い意味について理解していないと、質問されても答えられないでしょう?そこに何か[変化]のきっかけがあったかもしれないし、そこからゲームを左右する変化が生まれたかもしれない、と。」

ロジャースはプロのラグビーの世界で生きていくために、ITに強いという自身の経歴を活かした。しかし、さらにそこに価値を加えているのは、やはりラグビーというゲームについての彼の知識なのだ。
早い段階で、彼はコーチがとても見る時間がないだろうビデオを見つけ出し、ミーティングのときにはそれを見やすい形に準備している。

2006年にウェリントン協会でコーチのオージー・マクレーンの下でパートタイムの仕事を始めると、すぐにコリン・クーパーとともにハリケーンズに昇任した。2007年にはオール・ブラックスに呼ばれ、ウェリントンで開かれたフランスとのテストマッチ1試合において、バックアップのスタッフを務ることになった。そしてニュージーランド中が落胆した2007年のワールドカップの後、ロジャースはオール・ブラックスのフルタイムのスタッフに応募した。アシスタントコーチのウェイン・スミスに対して説明した彼の詳細なビジョンが認められ、彼は採用されることになった。

「最初の年、私はともかくチームに受け入れられようと、自分の役割を理解し、実行することに務めました。それだけでなく、私が目標は何か、どこでそれを実現できるのかについて考え続け、知ることができました。」
「私はスミスと時間を過ごす中で、ここが私の目標を実現できる場所、そして私たちが進歩をもたらすことができる場所であると言いました。私はテクノロジーを活用する方法を変えたいと言うと、彼はそれに同意してくれました。」

彼に大きなチャンスが訪れた。その頃オールブラックスは、どうやれば試合中にライブで分析を行えるのか、と考えていたのだった。
「そのとき使っていたシステムは、試合の映像を15秒遅れで見ることができるものでした。それは素晴らしかったのですが、自分はさらにゲームの最初のスクラム、2番目のスクラムといったように見ることができたらと望みました。しかし、当時の私たちにそのすべがなかったのです。」
今やコーチ陣は試合中にすべての傾向を確認することができるばかりか、さらに自信を持って、必要な変更をゲームプランに加えることもできるようになった。

同じように、この速報性は常にビデオで収録されている練習中のピッチへも導入された。選手たちは練習からホテルへ戻る途中のバスの中で、まだ記憶が新しいうちにパッケージになったビデオを見ることができるのだ。
ロジャースは、グラウンドを俯瞰で撮影できるカメラ付きの高いポールを見せてくれた。
「数年前にアメリカン・フットボールで見つけたんです。練習グラウンドの多くは、撮影ができる高い場所がありません。これは技術の修得にも、テクニカルスタッフにとっても理想的なしろものです。」
「すべてのビデオはすぐカットされます。選手たちはバスの中でトレーニングのビデオを見ることができます。私たちの作業が終わると、すぐにね。」

コーチ陣は、新しいプレーやパターンの修得について、またコンタクトプレーの中の細かいスキルについて、修正点を選手たちに与えるためにこのビデオを使っている。
ロジャースはそれを、チームを優位に立たせる「ディテールの悪魔(devil in the detail)」と呼ぶ。しかし同時に、彼が最も警戒しているのは、分析の中で身動きがとれなくなることとなのだとも語った。

(翻訳:橘  肇)

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